戦い
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「いいえ、違います。野田課長ではありません。違います。」
「まだ庇うのか?そんなにあいつが好きか?それなら明日会社に行って確かめてやる。」
「それだけは・・・・・お願い、それだけは止めて下さい。お願いします。お願いします。」
妻の泣き声を聞きながら、どう決着を付けるか考えました。
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5月20日(火)
朝9時に妻の携帯から電話すると。
「美鈴どうした?不都合な事でも起こったのか?」
「美鈴?不都合な事?今から家に来い。話がある。用件は分かっているはずだ。」
「あっ、ご主人。いえ。今から仕事で。今からは無理かと。今からは・・・・・・。」
「仕事?人の家庭を無茶苦茶にしておいて、仕事だと?それならいい、今から俺が そちらに行く。」
誰か近くに来たのか、口調が変わり。
「いいえ。今から御社にお伺い致します。」
「御社?会社ではまずいのなら、すぐに来い。」
野田が来たのは11時を過ぎていました。部屋に入り腫れた妻の顔を見て全て悟り、立ったまま頭を下げて謝罪しています。
「大きな会社の課長までしていて、謝り方も知らんのか?」
野田が慌てて土下座したのを見て近くに行き、蹴り倒して馬乗りになり、妻の時とは違い拳で2発殴りました。
次に拳を振り上げた時、その腕に妻が両手で縋り付き。
「あなた、もう止めて。許して下さい。どんな償いもします。何でもします。お願い、許して。」
野田は私が離れると、ハンカチで鼻血を拭きながら、ゆっくりと起き上がって正座しました。
「どうしてこうなった?妻が好きなのか?遊びか?」
「私の家は家庭内別居しているようなもので、最初は相談に乗って貰っていましたが、その内に。」
「好きになったのか?お互いに好きという訳か。いいぞ、離婚してやる。今から連れて行け。
ただ俺も長年親しんだ身体だ、名残惜しいので最後に1度だけさせろ。」
妻の着衣を荒々しく剥ぎ取ろうとすると、妻は泣きながら抵抗します。
それでも下着だけの格好にして野田を見ると、俯いたまま黙っていて顔を上げません。
「お前も見慣れた裸なので、あまり興奮しないかも知れないが、どうだ?いい身体だろ?
40歳を過ぎているとは思えないだろ?
この身体を譲るのだから安くは無いぞ。美鈴、身体の中まで散々見せた間柄だろ?
恥ずかしがらずに、いくらで買って貰えるか立ってよく見てもらえ。」
妻は、膝を抱えて泣いています。
「申しわけ御座いませんでした。許して下さい。離婚までは望んでいません。もう二度としませんので、許して下さい。」
「あなた、ごめんなさい。もうしません。ごめんなさい。」
野田は、明日また来るので、今日はもう許して欲しいと言いました。
「明日までに考えておくから、お前もよく考えて来い。
それと、離婚するつもりでいるが、もし離婚しない時でも、こいつは もう家政婦としてしか置くつもりは無い。
家政婦を抱く訳にもいかないから、女を抱きたくなったら金が掛かる。慰謝料は多い目に頼むな。」
こんな妻でも今までの生活を考えてしまい、情けない事にまだ未練があって、別れられないと思っていても、汚い言葉で強がりを言ってしまいます。
別れる気は無くても、別れると言って二人に対して強がる事だけが、妻を寝取られた私に残されたプライドでした。
野田が逃げるように帰ってから。
「美鈴、これからどうしたい?俺は別れたいが、お前はどうだ?
お前にお願いがある。もし別れたら子供達には出来るだけ会わないで欲しい。
お前のような人間にはしたく無いからな。」
私は、女々しいと分かっていても、子供の事まで持ち出して繋ぎ止めようとしました。
別れたくないのは未練だけでなく、自分だけが不幸になり、また妻が野田と付き合い、最悪再婚でもして幸せになる事が許せない思いもあります。
本当に女々しい男です。
「離婚だけは許して下さい。家政婦でもいい。ここにいたいです。
あなたが好きです。お願いします。離婚だけは・・・・・・。
彼とは別れます。忘れるように努力します。」
「忘れるように努力する?何だそれは。もういい。」
「ごめんなさい。あなたに悪いと思いながらも、正直に話しました。もう二人では絶対に会いません。ごめんなさい。ごめんなさい。」
「お前は、あいつのどこに惹かれた?セックスか?あいつは上手いのか?」
「違います。
最初、昨年の忘年会が終わってから、聞いて欲しい事があると言われて、二人で喫茶店に行きました。
彼は奥様が浮気してから奥様を許せない事、それでも まだ愛していて別れる事が出来ない事を打ち明けてくれました。
彼は、仕事も出来、人望もあって 強い人間だと思っていました。決して人前では弱みをみせませんでした。
その彼が私の前では涙まで流し、気がおかしく成ってしまいそうだから 助けてくれとまで言いました。
その後、何度か仕事が終わってから、悩みを聞いてあげる様になり、次第に関係も持つようになってしまいました。
彼には 以前から憧れの感情は持っていました。でも、それは、愛情とは違い、仕事が出来る強い男への憧れでした。
でも 私だけに弱みを見せてくれる彼を助けてあげたい、心がいっぱいになった時は、少しでも楽にしてあげたいと思って会っている内に・・・・・・・・・・・・。ごめんなさい。」
「それが愛情だろ?愛してしまったのだろ?そうでないと俺を裏切ってまで旅行に行くか?」
「いいえ、愛しているのは あなた1人です。旅行に誘われてから、あなたに優しくされて、自分が嫌で仕方がありませんでした。
もう この様な関係は止めなければと思いながらも、会いたい誘惑に勝てず、あなたに申し訳ないと思いながらも・・・・・・・・。」
妻の言う意味が私には理解出来ません。二人の男を好きになったと思い。
「会いたいという事は好きという事だろ。俺との関係は そのままで 恋人にも会いたい。それが許せると思うか?
あいつを助けるために 俺をあいつと同じ目に合わせたと言う事は、俺より好きなんだろ?
あいつとはセックスをして、俺には させなかったと言う事は、そういう事だろ?」
「ごめんなさい。ごめんなさい。
彼を嫌いではありません。いえ、好きです。
でも愛情とは違います。愛しているのはあなただけです。
あなたを拒んだのも罪悪感からです。
彼に抱かれた身体であなたに抱かれる事は、あなたに悪くて出来ませんでした。
あなたに誘われる度に罪悪感で おかしく成りそうでした。
ごめんなさい。ごめんなさい。」
「お前の話は、到底理解できん。
あいつに抱かれる時に罪悪感を持つのが普通だろ。
言い訳しても、結局は、あいつに抱かれたかっただけだろ?
このまま安定した生活を送りたいが、好きな人に抱かれたい。
好きな人に抱かれた身体を、好きでも無い俺に触られたくない。
そうだろ?そんなに俺を苦しめて楽しいか?面白いか?
離婚しても お前とあいつだけは、絶対に幸せにはしない。幸せになりそうな時は、あいつを殺してでも お前を後悔させてやる。絶対に許さん。」
「そんな事言わないで。ごめんなさい。殺すなんて、そんな怖い事言わないで。離婚なんて言わないで。ごめんなさい。ごめんなさい。」
その後、泣き続けていた妻は、簡単な夕食を作りましたが、自分は食べませんでした。
二人を別れさせる事は出来ても、気持ちまでは縛れない事に苛立ちます。
話を聞けば 余計辛くなっても、妻と話していないと 本当におかしく成ってしまいそうで、少し落ち着いた妻に。
「あいつは離婚して、お前と一緒になるつもりだったのか?」
「それはありません。私の事を好きだと言ってくれましたが、彼も愛しているのは奥様だと思います。
最近になって“妻に裏切られ悩んだが、俺も他に好きな人が出来た事で、妻との関係も良くなってきた。”と言っていましたから。」
「俺をこんな目に合わせて、自分は楽になったのか?そんな事は許さない。ぶち壊してやる。」
「お願いですから止めて下さい。私はどの様な罰も受けます。一生懸命償います。ですから、お願いします。お願いします。」
まだ野田を庇う妻に怒りが増し。
「お前、あいつの事を知っているのか?
今度の事も お前と先生に罪を被せて、自分だけ助かろうとしていた卑怯な奴だぞ。
そんな奴と俺を比較されるだけでも頭にくる。」
「知っていました。先生をまだ憎んでいて、許せず利用した事も、自分は逃げようとした事も。
そこが彼の弱さです。卑怯だと分かっていても・・・・・・・・。」
妻は、何か熱病にでも罹っているような状態で、私は理解に苦しみました。
「下種な質問をするが、お前は抱かれて感じたのか?あいつの物を咥えたのか?何度も絶頂の声を上げたのか?
手首が赤くなっていたが、縛られるような行為もしていたのか?それも感じたのか?
俺にばれなければ、まだ二人で会っていたと思うか?」
大粒の涙を流しながら全てに頷く、妻を見て、無意識に右手を振り上げてしまいましたが、殴られる覚悟で目を閉じた妻を殴る事は出来ずに 手を下ろすと。
「ごめんなさい。あなたをこんなに苦しめて。許して下さい。私は殺されても文句言えません。
私が一緒にいると、あなたを苦しめてしまう。あなたが楽なら離婚してもいいと今思いました。
離婚されても、殺されても仕方が無い人間です。ごめんなさい。ごめんなさい。」
離婚や死ぬ覚悟までした妻を、どうしたら良いのか分からず途方に暮れました。
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5月21日(水)
あれから妻と言葉を交わす事はありませんでしたが、昼に野田から電話で、午後6時に来たいと連絡があり、妻に。
「色々考えたが、離婚はしない事にした。」
「ありがとう。ごめんなさい。もうしません。」
「勘違いするな。お前を許した訳では無い。離婚してお前が幸せになる事が許せないだけだ。
離婚すれば大手を振ってあいつと楽しむつもりだろ?
一生手元に置いて償わせてやる。一生苦しめて後悔させてやる。もう妻とは思わない。」
「それでもいいです。あなたが少しでも楽になれるなら、どの様な事をされてもいいです。あなたが側にいる事を許してくれれば、私は側にいたいです。」
野田は時間通りに来て、部屋に通すとすぐに土下座して謝っています。
「どうするか考えて来たか?俺も考えたがお前から話せ。」
「もう二度と二人で会わない事と、仕事以外は連絡しない事を約束します。
誓約書も書きます。それと慰謝料として、前回お支払いしたのと合わせて百五十万お支払いします。
これでどうかお許しを頂きたいのですが。」
「25回したとして6万か。おい美鈴、お前を1回6万で買ってくれたぞ。」
「そういう意味では・・・・・・。すみません。」
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