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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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463 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 03:57:29.47 ID:tUla2ho3.net
「それなら、なんで中止なんだ?」

俺は聞いた。

「道具は揃えたし」

「千枚通しで、自転車もパンクしたし」

「あとは、チャンスをうかがうだけだから、大丈夫だよ」

実験結果もあわせて報告する。


「パンクってなんかすごい音がするかと思ったんだけど、そうでもないんだな」

これなら、誰にも気づかれることがない。俺は自信を深めていた。



464 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:04:41.34 ID:tUla2ho3.net
〈考えるより、行動〉

〈行動の記録が努力の証〉

俺はレイの言葉を忠実に守ってきた。

そして、その結果、計画もここまでこぎ着けた。

確かに最初の変化は、この部屋から一歩出た、それだけのことだったかもしれない。

けど その一歩は、振り返ると、いまやこんなに遠くまで、想像すらできなかったところまで、俺を押し進めてくれた。

俺は自分が誇らしかった。

いや、これは堂々と誇るべきだろう。

何もできなかった俺が、周囲に当てつけるためだけに自殺しようとしていた俺が、Aの殺害を計画し、あと一歩というところまで進めたのだから。

「何が大丈夫なの?」

だというのに、レイは冷たく言った。

「え?」

俺は思わず聞き返した。

それは、何かが壊れてしまうような、そんな予感に似ていた。



465 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:08:03.62 ID:tUla2ho3.net
「だって・・・・・・大丈夫だよ」

得体の知れない予感に怯えながら、俺は そう返した。

はっきり言って、レイが何を言ってるのかよくわからなかった。

何か計画に大きな穴があるのか?

俺は本気でそう考えた。

このまま実行すると、俺が捕まってしまうような、そんな穴が。





466 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:14:46.11 ID:tUla2ho3.net
「なにか俺が見落としてることがあるなら、教えて」

大急ぎで俺は打ち込んだ。

「俺は完璧だと思ってたけど、何かやばいとこがある?

あ、返り血のついた服をどうするか、だけど、指定のゴミ袋を買ってきたから、凶器をくるんで捨てちゃおうと思ってるんだ。

もしかして、それってやばいかな??」


普段なら、俺がこれくらいの分量を書くころには、レイはこの倍のレスをくれているのだが、今日に限って、それがない。

「どうしたの? 調子が悪いの?」

この前、打ち込めなかった台詞を、俺は打ち込んだ。

「大丈夫??」



467 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:19:29.07 ID:tUla2ho3.net
「私は大丈夫よ」

しばらく待つと、やっとレイの返事が返ってきた。

「なんだ、心配したよ」

俺は ほっとしてそう返した。

それから、中断したままだった飯に手を伸ばした。

あ、そうか、レイも食事中なのかもしれないな。呑気にそんなことを考える。

そのときだった。

「もう一度言うわ」「私は大丈夫」「どうかしてるのは、あなた」

箸を持った手が、宙で止まった。



468 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:30:59.84 ID:tUla2ho3.net
「どうかしてるのは、あなたよ」

もう一度、同じ台詞が画面に現れた。

そのまま、再びレイは黙った。


どうかしてるのは、・・・・・・俺?

のぼっていた蜘蛛の糸が、ぷつり、どこかで切れたような音がした。

なんだ? どういう意味だ? なぜレイは そんなことを言う?

糸はまだ完全には切れていない。そこにしがみついたまま、俺は自問した。

あと少しで、お釈迦様の待つ天上だ。

そこに咲き乱れているという蓮の香りが漂い、目にはその美しい風景が映ろうとしている。だというのに。なぜだ。

糸にしがみつく俺の中に、小さな空虚が生まれた。それは じわじわと身体の内部を侵食し、俺を虚ろにしようとした。



469 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:34:58.64 ID:tUla2ho3.net
「どういう意味?」

俺はやっと そう打ち込んだ。

「わからない?」

今度は すぐに文字が現れた。

「わからない」

俺は答えた。

「全然わからない」

「どうして計画を中止しなきゃならない?」

「理由を教えてくれ」

ありったけの力を込めて打ち込んだ。



470 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:39:13.99 ID:tUla2ho3.net
「それは・・・・・・言えない」

しばらく待つと、文字が現れた。

俺は その言葉が信じられず、何度もそれを読み返した。

言えない?
言えない、だって?
あの、レイが?
あの、何でも淡々と言葉にしてしまうレイが??



471 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:42:02.59 ID:tUla2ho3.net
「言えないって、どういうことだよ」

俺は急いで打ち込んだ。俺は混乱していた。慌てていた。

だって、わけがわからない。これまで積み上げてきた計画を中止しろ、だなんて。そう言いながら、中止の理由も説明できないなんて。

「もしかして、俺のことが信用できない?」

わけがわからないまま、俺はそう聞いた。

「いざとなったら できないんじゃないかって、そう疑ってるの?」





472 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:47:51.01 ID:tUla2ho3.net
「疑ってなんかない」「信じてる」「信じてるからこそ、言ってるの」

レイは言った。それから、彼女らしくもなく、言葉を翻した。

「いいえ」「そうじゃなくて」「あなたは間違ってる」「だから、やめて欲しいの」


「間違ってる?」

計画を根本的に否定され、俺はさらに混乱した。間違ってるってどういうことだよ?

そもそも、Aを殺せって言ったのは、ほかならぬレイだろ??



473 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:54:54.57 ID:tUla2ho3.net
「ちゃんと説明してくれよ。じゃないとわからない」

俺は懸命にキーボードを叩いた。

このときばかりは、レイが画面の向こうにいることがうっとうしくて仕方がなかった。

だって口で言った方が遙かに早くて楽なことも、キーボードじゃ もたついて、うまく伝わらない。

「俺の命と、Aの命、どっちが消えるのが正しいかって、君は初め、そう言っただろ」

〈あなたには生きる価値がある〉

レイはそう言ってくれた。その言葉を土台に、俺はここまで立ち上がれたんだ。

いまさら、その土台が崩れ落ちるなんて、想像もしたくない。



474 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:59:55.87 ID:tUla2ho3.net
「言ったわ・・・・・・」

レイはそう認めた。

けど、それはあんまりにも彼女らしくない、弱々しい言葉だった。

「けど、それは そういうつもりで言ったんじゃないの」

「そういうつもりじゃない?」

それはあまりに理不尽で無責任な台詞だった。現実なら、俺は叫んでいただろう、そんな勢いで俺はキーを叩いた。

「じゃ、どういうつもりだったっていうんだよ!!!!」



475 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 05:13:33.11 ID:tUla2ho3.net
ガシャン、勢いよく手を上げた勢いで、生姜焼きの皿が吹っ飛んだ。茶色い色をした汁が そこらに飛び散った。

「なんなんだよ!!!」

俺は思わずリアルに叫び、パソコンをティッシュで乱暴に拭いた。腕や足についた汁も拭った。その延長で床も拭って・・・・・・

同じく汁に染まった紙切れに目を止めた。それは またしても、新聞記事の切り抜きだった。親がわざわざ切り抜いて、当てつけのように皿の下にでも置いたんだろう。

苛立っていた俺は八つ当たりをするように、それをぐちゃぐちゃに丸めかけて・・・・・・

・・・・・・ふと、その手を止め、シワになったそれを伸ばした。切り抜きに並んだ小見出し。

その文字が俺を引きつけたのだ。



477 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 10:57:37.19 ID:tUla2ho3.net
「私の言葉を思い出して欲しい」

「私が求めていたのは、あなたの〈答え〉」

「あなたがこれからどう在りたいのか」

「私はそう聞いたはず」


画面の中のレイが、俺に語りかけていた。

俺は ぐちゃぐちゃになった切り抜きを、しばし惚けたように見つめ、それから、ゆっくりとキーを叩いた。

「俺はAを殺したい。それが〈答え〉だ」

いろいろな感情が渦を巻き、本当は自分が何を考えているのか、あまりよくわかっていなかった。

「Aを殺す。もう決めたんだ」



478 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:13:33.51 ID:tUla2ho3.net
「違う」「あなたはまだ〈答え〉を出していない」


レイの答えは、いままでと同じくらい早かった。

けれど、その無感情な台詞は、いままでにないくらいの悲壮感をまとっていた。


「あなたは その憎しみを糧に外へ出た。出ることができた。

努力をした。計画を立て、目標に進むことを知った。

素直に現実を見て、行動を積み重ねた。

あなたはもう――」


「もう、何だよ?」

たたきつけるように俺はエンターキーを押した。レイの言葉が、俺の言葉でぶつ切りになった。







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