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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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479 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:14:15.91 ID:tUla2ho3.net
「あなたはもう――」

それでも、レイは続けた。

振り絞るように、声を上げた。



480 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:22:31.94 ID:tUla2ho3.net
きっと本来なら、その言葉は俺たち二人にとって祝福になるはずだった。

幸せな門出の言葉として、笑顔で言いあうべきものだった。

もしも、場面が違ったら。

俺とレイが、言い争いにならなかったら。

きっと、そうなっていただろう。

けど、現実はそうならなかった。

だから。


その言葉を口にしたレイは、まるで涙でしおれた花だった。

「あなたはもう、一人で立ち上がることができたのよ」

「おめでとう」

「あとは〈答え〉を見つけるだけ」

「あなたの〈生きる目的〉を」



481 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:27:55.00 ID:tUla2ho3.net
「どういうことだよ・・・・・・」

レイの冷たい涙の雨が直接心に入り込んだかのように、すうっと胸が冷たくなった。

「俺が、もう一人で立ち上があることができた?」

「何言ってんだよ、俺はまだ あいつを殺してない」

「あいつを殺さなきゃ、俺は立ち上がることなんかできない!」

「俺の命か、あいつの命か。どっちかをこの世から消さなきゃならないんだ!」


そうなのに。絶対にそうしなきゃならないのに。

どうして、どうしてなんだ。

どうしてレイはそんなことを言うんだ。





482 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:36:32.67 ID:tUla2ho3.net
「Aの命を奪う必要は、もうない。

あなたも、それに気づいているはず。

あなたは あなたの人生を生きて――」


「違う。Aを殺さないと、俺は生きていられないんだ!Aを殺す、Aを殺すために俺は!」


「違うわ!」

レイが叫んだ。初めてのことだった。

「違う」

気圧された俺の隙を突いて、レイは続けた。

「計画は、あなたが立ち上がるために必要だっただけ。

弱ってしまった身体で立ち上がるために、必要な杖であっただけ。

「でも、足元を見て。

あなたは もう杖なしで立ってる。

もうそれは必要ないものなのよ!」



483 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:38:58.92 ID:tUla2ho3.net
「違う違う違う違う!!!!!」

俺は思いきり叫んだ。

「この計画は そんなもんじゃない!俺はAを殺したいんだ。あいつを殺すためだけに、いままで努力してきたんだ!」

「これは杖なんかじゃない!俺が生きるために必要な手順なんだ!!!」



484 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:46:48.96 ID:tUla2ho3.net
「必要な手順?そんなはずないでしょう!」

レイは またしても叫んだ。

もはや いつものレイはどこへ行ってしまったのか、俺にはわからなかった。


「じゃあ、聞くけど、あなたがAを殺したとする。

あなたの世界には、いっとき平和が戻る。

けど、そのあとは?」


「そのあと?」


「そうよ」

レイは少し落ち着きを取り戻したようだった。


「世界は いつまでも平和じゃない。必ず、あなたは また誰かと衝突することになる。二度とあなたがいじめられない保証もない。そのときは?」

「第二、第三のAが出てきたとき、あなたは どうするの?そのたびに あなたは〈必要な手続き〉として その人たちを殺すの?」

「あなたが歩く後に、屍を積み重ねていくの?」



485 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:55:14.31 ID:tUla2ho3.net
「そんなこと わかるかよ!」

レイの言葉を、俺は撥ねつけた。

「そのときは そのときだよ!殺すかもしれないし、殺さないかもしれない。そんなの、誰にだってわかんないだろ!!!」

叫びながら、何か空恐ろしいことを言っている気がした。けど、そんなことは どうでもよかった。



486 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:58:51.01 ID:tUla2ho3.net
そう、そんなことは どうでもいい。

俺は一度 深呼吸をした。

俺が一人で立ち上がったんだとか、計画が俺にとっての杖だったんだとか、レイの祝福に聞こえない祝福の言葉だって、その全部が どうでもいい。

それより大事なことを、いま、俺は確かめなきゃいけない。

俺は汚れた切り抜きを横目で見た。

「それよりさ」「建前はいいから、本音を言えよ」「レイ」



487 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 13:30:13.98 ID:tUla2ho3.net
「本音?」

レイは戸惑ったように、けれど慎重に聞き返した。

当然だろう、そう俺は思った。ここは戸惑ったふりをするべきだ。

なぜなら、レイの考えなら、俺は何にも気づかないはずだからだ。

何も気づかず、おめでとう、レイの祝福をありがたがって受け取るはずだからだ。

けど、そうはいかない。

レイへの尊敬を無理矢理憎しみに変換しながら、俺はキーを叩いた。

そうしながら、心では まったく逆のことを思っていた。


俺の味方だと、俺を手伝いたいんだと、レイはそう言ってくれたはずなのに。

裏の意味を読む必要のない、真っ直ぐな言葉をくれたはずなのに。

どうしてなんだ、どうしてレイは いまになって嘘をつくんだ。





488 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 13:39:47.11 ID:tUla2ho3.net
「本音だよ、本音」

「本当に思ってること」

「いまさら隠さないでくれ」

「俺は全部知ってるんだから」

「知ってるって・・・・・何を?」


レイはやはり わからないふりをする。

しらを切り通すレイに絶望さえ感じながら、俺は切り抜きを見た。

相も変わらず、インターネットが青少年に与える影響を論じるその記事。

その記事には、こんな小見出しが踊っていた。

「続・インターネットの闇――絶えぬ少年への誘惑 殺人教唆で逮捕者も」


殺人教唆。

殺人を そそのかすことへの罪。

少年へ、殺人を そそのかすことへの・・・・・・



489 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 13:49:18.88 ID:tUla2ho3.net
「計画中止だなんて言い出したのは、これが理由だろ」

俺はできるだけ感情を抑えて言った。

「もし俺が失敗して、警察に捕まったら。

俺がしゃべらなくても、パソコンの履歴からレイの名前が出る。

あの〈証拠〉だってある。

だから・・・・・・君は怖くなったんだ」


レイを責める言葉は、俺自身を切り裂くような気がした。

それは まだ俺がレイを信じている証拠だった。信じたいと思ってる証拠だった。

けど、それはもう無理だった。無理だと思った。

だって、そのレイが俺を信じてくれてないんだから。



490 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 13:57:12.35 ID:tUla2ho3.net
「それは、違う」

しかし、レイは言った。

「そんなこと、考えたこともない」

「事実じゃない」

「嘘だ」

けど、俺も言い返した。

「俺のためとか、俺に必要だとか言って、本当は全部嘘だったんだ。レイは俺のことなんか、本当はこれっぽっちも考えてくれてなかったんだ!」

俺の目には、いつのまにか涙がにじんでいた。その涙を、俺は拭った。



491 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 14:07:01.11 ID:tUla2ho3.net
『俺のことなんか、これっぽっちも考えてくれてなかった』

口に出すと、文字にすると、事実は いとも簡単にその形を変えた。

レイは、俺と何時間もチャットをしてくれた。

レイは、俺の罵倒に耐えてくれた。

レイは、この部屋から出る方法を教えてくれた。

レイは、目標を達成する方法を教えてくれた。


それが記録のできる、客観的な事実であったはずなのに、それは全部吹き飛んで、あとに残ったのは「裏切り者のレイ」だけだった。

「裏切り者のレイ」は最低だった。

俺は自分で創り出したその幻影を見ていたくなくて、こう書き込んだ。



492 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 14:10:37.26 ID:tUla2ho3.net
「俺は、一人でも計画をやり遂げる」

「やってみせる」

「もし、捕まっても、君の名前は出さない」

「約束する」



「だめ」「お願い」

レイの言葉が間に挟まれたが、俺は それを無視した。

「警察が来たら、このパソコンを壊す」

「だから、安心して」

「俺は一人で計画を思いついて、一人でやり遂げた」

「そう言うよ」







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