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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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422 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 04:12:26.16 ID:TczQQdCb.net
足取り重く、俺は家にたどり着いた。

そして、いつもなら始める筋トレをすっ飛ばしてベッドに潜り込んだ。

明日の昼間、ナイフを買いに出かける。

俺は それをまるで与えられた任務のように頭にたたき込むと、目を閉じた。

それから思いついて、埃を被った目覚まし時計に手を伸ばした。

いつかの誕生日に、親にもらったロボット型の目覚ましだ。

「オハヨウゴザイマス、地球ハ朝デスヨ」

電子音代わりに、そんな音声の入ったものだ。

不登校になる前は、ずっと使っていた。



423 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 04:21:18.50 ID:TczQQdCb.net
俺は この目覚ましが案外気に入っていた。

親がくれた他の誕生日プレゼントなんて、何をもらったか、それをどこにやったのか、なんてあまり覚えてもいないが、これだけは好きで使い続けていた。

だって、「オハヨウゴザイマス、地球ハ朝デスヨ」なんて、なんか夢がないか?

そんなわけあるはずないけど、このロボットは宇宙と交信ができて、いろんな星々に朝を伝えてるんだ、俺はそんな想像を膨らませていた。

火星の真っ赤な朝や、木星の煙った朝、それから、太陽からずっと離れた星の、誰も知らない星の朝・・・・・・



424 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 04:24:34.12 ID:TczQQdCb.net
そんな朝が、地球にも来る。

ロボットは それを俺に教えてくれる。

今日も始まる地球の朝。

輝きに満ちた新しい朝。

目覚ましを午後二時に設定しながら、俺は思った。

俺の朝は いつから来なくなってしまったんだろう。



425 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 04:29:56.76 ID:TczQQdCb.net
Aを殺す。

再び目を閉じ、俺は強く思った。

Aを殺して、俺は自由になる。

そして・・・・・・俺の朝を取り戻す。

そのためにはナイフを買いに行かなくてはならない。

できるだけ早く、誰にも気づかれないうちに、事を済ませてしまわなければならない。

Aを殺さなければならない。

Aを殺す、Aを殺す、Aを殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す・・・・・・

つぶやきながら落ちた眠りは浅かった。

けど、それは逆に良かったのかもしれない。

こんなふうに高ぶった神経のままでなきゃ、俺は任務を成功させる自信がなかったから。





426 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 04:43:21.10 ID:TczQQdCb.net
「オハヨウゴザイマス、地球ハ朝デスヨ」

「オハヨウゴザイマス、地球ハ朝デスヨ」

「オハヨウゴザイマス、地球ハ朝・・・・・・」

ロボットが三回目の台詞を言い終わる前に、俺は頭のボタンに触れ、目覚ましを止めた。

「火星ハ夜ノ三時デス」

止まったときの音声に、俺は思わず ふふっと笑った。

久しぶりに聞いたからってのも、もちろんあったが、火星が夜の三時って何なんだよ、と思った。

まあ、それを言ったら「地球の朝」って何なんだよ、ってことだけど。



427 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 05:00:48.96 ID:TczQQdCb.net
よく眠れなかった割には、頭の芯が醒めているような感覚があって、体中の神経が びりびりと敏感になっているような気がした。

窓の外には、夜には聞こえない さまざまな音が、当たり前のように充満している。

昼間の光に照らし出された町が、ざわざわと うごめいている。

他人だ。

俺はみぞおちが すうっと冷たくなるのを感じた。

この窓の外では、他人が笑って、話して、歩いて、車に乗って、仕事をして、まるで働きアリみたいに、忙しく動き続けている。

俺が眠っている間に、俺を置いてきぼりにして。



428 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 05:03:41.39 ID:TczQQdCb.net
俺はベッドに腰かけたまま、しばらく そうして固まっていた。

それから、そろそろと立ち上がった。

窓の外にいるあいつらに気づかれないように、俺の気配を誰も感じられないように。

こんなことで、今日、買い物に出かけられるんだろうか。

不安が頭をよぎった。



429 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 05:20:28.70 ID:TczQQdCb.net
いや、出かけられるかじゃない、出かけるんだ。

俺は自分を叱咤すると、錆びて固まったような身体を無理矢理動かし、着替えた。

昼だと、いつものマリナーズ帽は目立つかとも思ったが、帽子を外すことは どうしてもできなかった。

俺は肩掛けバックに財布を入れると、自転車の鍵を引き出しから探し出した。

近くではなく、少し遠いほうのホームセンターに行こうと決めていたからだ。


こう書き出してみると、俺は冷静で落ち着いているように見えるかもしれない。

実際、俺も何となく上の空ながらも「意外と冷静」だなーなんて思ってた。

いざ出かけようとして、いつものように廊下に置かれた飯を蹴り飛ばすまでは。

どうやら、完全に地に足がついてないな。

俺は少し反省した。


幸い汁気のあるものはなかったから、とりあえず部屋の中に飯を入れて、階下に向かった。



430 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 05:30:33.15 ID:TczQQdCb.net
そこでも、俺は いつものくせで窓に向かいかけた。

やばいやばい。

今日は玄関から出ないと・・・・・・。


俺は一度深呼吸をして、何とか気持ちを落ち着かせた。

靴を履き、魚眼レンズから外を覗いた。

誰もいないことを確認する、玄関に手をかける、もう一度確認する、そんな何回か繰り返してから、やっとドアを開いた。


その瞬間、車が通った。

冷や汗が滴るのを、帽子のつばを下げて隠し、家の横から自転車を引きずり出した。

そして、逃げるように それに飛び乗った。



431 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 05:37:48.70 ID:TczQQdCb.net
幸い、自転車は軽快に走り出した。

俺は できるだけ顔を上げずに足を動かした。

誰も俺に声をかけないでくれ。

誰も俺に声をかけないでくれ。。。

その願いが通じたのか、俺は無事に危険区域(近所)を抜けた。

よかった・・・・・・

最初の難関をくぐり抜け、ほっとした俺の目に、そのときピンク色の花びらが映った。

俺は思わず顔を上げた。

桜だ。



432 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 05:54:45.61 ID:TczQQdCb.net
それは、終わりかけなのか、それとも咲き始めなのか。

ちらほらと咲いた桜並木の中を、人目を気にしながらも、俺は自転車を少しゆっくりと走らせた。

こんな俺にも、桜って花は何となく特別で、見ていると心が洗われるような、前向きになれるような、そんな気持ちになるものだった。

ああ、もう春なんだなあ。

いっとき、Aを殺すことを忘れ、俺は張り詰めていた心を緩ませた。

前から歩いてきたおばさんに、すぐに目を伏せざるを得なくなったけど。





435 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 11:43:04.61 ID:TczQQdCb.net
なぜ、いまこれを書いているかってのは、ラストにちゃんと書くつもりだ。


俺は明らかに挙動不審な仕草で、おばさんから顔をそらした。

・・・・・・と、その一瞬、ちらっと見えたおばさんの様子に少しギョッとした。


それから、そうか、と思いついて慎重にあたりを見渡した。

バス停のベンチに座ったおじいさん、コンビニから出てきたおじさん、道の向こうを集団で歩いているどっかの女子中学生・・・・・・

みんながみんな、というわけじゃないが、結構な人たちが、マスクで顔半分を覆い隠している。

花粉症だ!

俺は とっさに自転車から降りると、コンビニでマスクを買った。

一応、疑われないようにと思ってニセのくしゃみをしたが、それはどうやら必要なかった。

・・・・・・俺はマスクを装備した!

・・・・・・他人の視線によるダメージが半減されるようになった!!



436 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 11:49:04.18 ID:TczQQdCb.net
マスクを装備した俺は、桜並木を颯爽と自転車で駆け抜けた。

そりゃ、花粉症じゃないから言えることだとはわかってるが、こんなに春という季節に感謝したことはなかった。

マスクをする。

たったこれだけで、こんなにも他人の目が気にならなくなるなんて。

俺は このマスクが一生顔から外れなくったって構わないとさえ思った。(飯のことを思いついて、あとで訂正した)



437 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 11:59:24.14 ID:TczQQdCb.net
良い想像が幸運を呼ぶ。そんな話をよく聞くが、それはテンションが上がった状態でも同じらしい。

無事ホームセンターに着いた俺を待っていたのは、さらにテンションの上がる発見だった。

それは入り口の「本日ポイント5倍サービス!」コーナーにずらりと並んだ、市町村指定のゴミ袋だった。

・・・・・・もし、洋服に返り血がついても、これで捨てちまえばいいんじゃないか?

俺はとりあえず、ゴミ袋を手に取った。

犯行現場予定近くのゴミ捨て場に捨てるわけにはいかないけど、もう少し遠いところなら?

事件が発覚して、警察が捜査し出す頃には、物証は回収されて燃やされちまうってわけだ。



438 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 12:02:49.64 ID:TczQQdCb.net
俺の住む地域は、ゴミの区分も そんなに厳しくないはずだし、都会のように中を検めてどうのこうのって話も聞かない。

凶器の包丁も、もしかして洋服に包んでしまえば、そのまま回収されて処理場行きだろう。たぶん。

俺のテンションはさらに上がった。

その勢いで、俺はリストアップされた品物を次々にカゴに入れた。



439 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 12:11:34.08 ID:TczQQdCb.net
黒くてすべらない手袋に、千枚通しに、便利なマスク。

それから、一番安い野球帽と、黒っぽい作業着の上下。

野球帽を買ったのは、せっかくのマリナーズ帽を汚したくなかったからで、そう考えると、洋服も使い捨てが良いだろうと思い、購入した。

そうなると、靴も必要だろう。

けど、予算がどうかな・・・・・・??

そう思いながら靴売り場を覗くと、意外と二束三文の値段で売っていた。

すげえな、ホームセンター。

気をよくした俺は、最後の品物を買いに向かった。

包丁だ。



440 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 12:18:20.25 ID:TczQQdCb.net
こんなに包丁って種類があるんだ・・・・・・。

目移りしそうなほど並んだ包丁を見て、俺はひとまず感心した。

ステンレスから鋼、白いセラミック。

四角いのから、幅の細いの。

種類も様々なら、値段も様々だ。

一万円以上の値札が付けられた包丁を見て、俺は目を丸くした。

よく切れるのかもしれないけど、これはさすがに買えないな・・・・・・。







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